朝の通勤中、信号で車を止めていた。
低い朝日が信号機に重なり、青に変わったのが見えなかった。
その直後、
後ろからトラックのホーンが鳴った。
考えるより先に、
私は反射的に車を発進させていた。
身体は先に動いた。
でも、心はほとんどざわつかなかった。
少し前までの私なら、
ここから自分を責め始めていたと思う。
「どうして気づけなかったのか」
「迷惑をかけたんじゃないか」
そんな声が、頭の中を占領していた。
けれど今日は違った。
鳴らされたことも、動いたことも、
ただの出来事として受け取れていた。
焦りも、怒りも、
必要以上に広がらなかった。
反射は起きた。
でもそれは、私そのものではなかった。
長いあいだ身につけてきた、
身体の動きが出ただけだった。
大切なのは、そのあとだった。
私は、自分の感覚に戻ってこられた。
今ここに立っている感じを、ちゃんと感じていた。
相手の事情も、
その場の偶然も、
すべてを自分の責任として抱え込まなくてよかった。
ただ、それだけの朝だった。
「進歩したな」と、自然に思えた。
誰かに褒められたわけでも、
評価されたわけでもない。
心が静かだった。
それだけで、十分だった。
選択者であるというのは、
いつも正しく振る舞うことではない。
反射してもいい。
遅れてもいい。
思うようにできない日があってもいい。
それでも、
自分の場所に戻ってこられること。
私は今日、
その感覚を確かに持っていた。
もし、
「前と同じことが起きたのに、
前ほど苦しくならなかった」
そんな瞬間を知っているなら、
それは、もう変化が始まっている合図だ。
未道録は、
劇的な成功を書き残す場所ではない。
こうして静かに、
戻ってこられた日を置いていく記録。
まだ道の途中。
それでも、ちゃんと歩いている。
