職場で内線が鳴った。
受話器の向こうから、
少し強めのトーンの声が聞こえてきた。
用件そのものより、
声に含まれたニュアンスが引っかかった。
「早く反応してほしい」
そんな圧が、言葉の間から伝わってきた。
その瞬間、
身体が一瞬だけ反射しそうになる。
急がなきゃ。
相手のペースに合わせなきゃ。
そう動きかけた自分がいた。
でも、そこで立ち止まった。
これは用件の問題ではない。
相手の焦りが、
こちらに流れ込んできているだけだ。
そう気づいた途端、
胸の奥に少し距離が生まれた。
私は急がなかった。
声の調子も変えなかった。
必要なことだけを、
淡々と返した。
電話を切ったあと、
思ったほど心は乱れていなかった。
以前なら、
相手の圧をそのまま受け取って、
しばらく引きずっていたと思う。
今日は違った。
相手の感情は、相手のもの。
私が背負う必要はない。
その線引きが、
ほんの一瞬できただけで、
心の疲れは大きく違った。
イラついた自分を、
責める気にもならなかった。
それは、自分を守る感覚が
ちゃんと働いた証拠だからだ。
私は今日、
声の圧に巻き込まれずに、
自分のペースを守ることができた。
圧を感じた時、
すぐに反応しなくていい。
一拍おくだけで、
心はちゃんと戻ってくる。
