第17話|境界線を知らずに、生きてきた

境界線という言葉を、
私は最近まで、ちゃんと知らなかった。

だから今思えば、
境界を侵してもきたし、
散々、侵されてもきたのだと思う。

断らずに引き受けることが優しさだと思っていた。
相手の都合に合わせることが、大人だと思っていた。
自分の違和感を後回しにすることが、
生きていくための知恵だと信じていた。

でもそれは、
境界線がないまま生きることだった。

境界線がないと、
どこまでが自分で、
どこからが他人なのかが分からなくなる。

相手の期待が、
いつの間にか自分の義務になり、
相手の機嫌が、
自分の価値の基準になる。

気づかないうちに、
自分の内側は、
何度も踏み越えられていた。

そして同時に、
私自身も、
誰かの境界を踏み越えていたのだと思う。

良かれと思って。
役に立ちたくて。
嫌われたくなくて。

境界線を知らないまま生きるというのは、
誰かを守ることでも、
自分を守ることでもなかった。

今日、ふとした瞬間に思った。

こんなに、
自分のことを守っていいんだ、と。

全部を拒むわけじゃない。
全部を閉ざすわけでもない。

ただ、
「ここまでは私」
「ここから先は私じゃない」

その線を引いていい。

それだけで、
世界は少し静かになった。

境界線は、
人を遠ざけるためのものじゃない。

自分を、
生き延びさせるためのものだった。