第3話|従ってきた私は、心を失った

自分の感情がどこにあるのかわからなくなった日。

気づいた時には、心がどこにあるのかわからなくなっていた。

嫌だと思っているはずなのに、それを感じる前に動いてしまう。
疲れているはずなのに、休むという選択が浮かばない。
やりたくないのに、笑顔だけが身体の表面に貼りついていく。

従うことを続けていると、
自分の感情は少しずつ、声を失っていく。

何を感じているのか、
そもそも感じていいのか、
その判断すらできなくなる。

「嬉しい」と言われれば嬉しい気がする。
「ありがとう」と言われれば、役に立てた気がする。
でも、それが本当に自分の感情なのか、
どこかで確かめる術がなかった。

心は消えたわけじゃない。
ただ、触れ方を忘れてしまっただけだ。

自分の気持ちを確かめるよりも、
誰かの望む形に合わせる方が早かった。
その方が、波風が立たなかった。
その方が、楽だった。

そうして私は、
自分の心よりも「正しそうな行動」を選び続けていた。

いつの間にか、
感じることより従うことの方が、
生きやすい気がしてしまったのだ。

その積み重ねの中で、
私は少しずつ、自分の心を見失っていった。

心を失ったのではない。
どこに置けばいいのかわからなくなっていただけだ。