第12話|戻ってきたのは、大きな感情ではなく小さな苛立ちだった

怒りの残り火が、私の感情を温め始めている。

本当の感情は、劇的に戻ってくるわけではない。

私の中で最初に動いたのは、
涙でも笑顔でもなく、
小さな苛立ち。

それは誰かを責めるためのものでも、
爆発するような怒りでもない。

ただ、
「なんで私ばっかり」
「どうして私がやらなきゃいけないの」
そんな、静かで細い声。

その声に気づいたとき、
私はまだ感じられる存在なのだと知る。

これまでの私は、
感情を飲み込むことで生き延びてきた。
違和感を押し殺し、
納得できないことに頷き、
境界線を越えられても笑う。

だからこそ、
苛立ちは不快なものではなく、
体温のように懐かしい。

「嫌だ」と思えることは、
自分がそこにいる証拠。

苛立ちを感じた瞬間から、
世界は少しだけ立体になる。
白黒だった景色に、
わずかな色が戻ってくる。

私は知る。

苛立ちは、壊れた何かの残骸ではなく、
自分に戻るための最初の扉。

その小さな棘が刺さるたびに、
私の中の声がこう囁く。

“もう、無理しなくていい”

苛立ちは、間違った感情ではない。
失っていた私の輪郭を、
そっとなぞるために戻ってきただけ。