第9話|私は怒りを封じて生きてきた

本当はずっと、傷ついていたのに
怒りは、私の中で一番触れてはいけない感情だった。

怒ったら嫌われる。
怒ったら見捨てられる。
怒ったら居場所がなくなる。

そう思っていた。

だから私は、怒りを感じた瞬間に
笑顔で上書きしてきた。

「大丈夫」と言えば、
何も起きない気がした。
「平気だよ」と言えば、
自分の心に蓋ができる気がした。

でも、その笑顔の裏側では
いつも小さな火がくすぶっていた。

本当は嫌だったこと。
本当は苦しかったこと。
本当は尊重されたかったこと。

怒りは、壊すために生まれたのではない。
守れなかった境界線が、
痛みと一緒に叫んでいただけだった。

私は怒ってはいけないのではなかった。
怒れるほど、私は傷ついていたのだ。

その事実に触れたとき、
胸の奥が熱くなった。
怒りは私の敵ではなく、
ずっと置き去りにしてきた
もう一人の私だった。

怒りは感情ではなく、
「ここが苦しかったんだよ」という
心の地図だった。

私はようやく、
自分の痛みの場所を知り始めている。

怒ることは、壊すことではない。
守れなかった自分に
もう一度出会うことだった。